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軍地彩弓ファッション・ディレクターに訊く、テクノロジーが切り開くファッションの未来<前編>



ソーシャルコマースなどの発展で、より一層テクノロジーがファッション業界で活躍できる場が広がった2015年。それは、お互いの業界にとって大きなチャンスでもあります。さらに、ファッション×テクノロジーが進展していくために今出来ることは?
今回は、雑誌や広告、カタログのエディトリアルやヴィジュアル制作に加え、プランニングやコンサルティング業など幅広く活躍されているファッション・ディレクターの軍地彩弓氏をお迎えして、ファッション業界の現状をうかがうとともに、テクノロジーが切り開くファッションビジネスの可能性について探っていきます。
<PROFILE>
軍地彩弓 SAYUMI GUNJI
大学卒業後、講談社「ViVi」のファッションライターとして従事。セレブブームや109ファッションなど数々の流行を生み出す。「ViVi」の姉妹誌として「GLAMOROUS」を立ち上げ、ファッション・ディレクターとして携わる。日本市場に初めてアラウンド30、エイジレスというコンセプトを取り入れ大きな話題に。コンデナスト・ジャパン「GQ JAPAN」の編集長代理、「VOGUE girl」クリエイティブ・ディレクターを経て、現在は扶桑社「ヌメロ・トウキョウ」エディトリアル・ディレクターとして活躍。2014年、自身の会社、株式会社gumi-gumiを設立。
瀬戸恵介 KEISUKE SETO
2010年10月グルーポン・ジャパン株式会社、2013年8月ザ・リアルリアル株式会社のそれぞれ代表取締役を経て、2014年5月よりターミナル株式会社、代表取締役就任。

-今のファッション業界の問題点とは
瀬戸:テクノロジーがファッション業界でより活躍できることはないかと思いまして、軍地さんに今のファッション業界の状況や問題点を詳しくうかがいたいなと思っています。

軍地:ファッション業界は今転換点にあるのだと思います。ここ数年で消費者、メーカーの環境が大きく変わってきたのです。私は、80年代から編集者としてファッション業界を見てきたのですが、いわゆる大量消費の時代がありました。雑誌も部数が伸びていて、100万部発行という雑誌もあったほど。雑誌の活況の背景には大量生産、大量消費時代がありました。その時、日本は国内消費だけでアパレル産業が成り立っている稀有な国だったのですが、そこに、2005、2006年くらいからH&MなどのSPA 型のファストファッションブランドが登場し、日本独自が作り上げてきた生産背景とは別の軸がはいってきたんです。肥大化していくメーカーと消費者のバランスが急にくずれだしたというのが、2010年からのファッション業界の流れですね。

瀬戸:2008年のリーマンショックがひとつのきっかけにもなったのでしょうか?

軍地:リーマンショックはポイントにもなったと思いますが、大きな原因はファストファッションの参入だと思います。また、私たちバブルを経験している人たちは、欲求が増大化した時代があったからこそ消費が拡大化したというのもあるのですが、80年代から2000年代生まれのミレニアムジェネレーションにとっては子供時代から物があふれていて、欠乏感が薄く、消費のポテンシャルが低かった。それよりも、自分の好きなことややりたいことを優先する、消費が美徳じゃない世代が育ってきたんです。たとえば、20代に車が売れないのもそういう理由ですよね。

瀬戸:たしかに僕の知っているIT系の成功されている方も車に興味がある人が少ないんですよね。僕は80年代生まれですが、僕自身も興味がなくて。だから分かる気がします。

軍地:アイデンティティの問題だと思うんです。過去の消費社会というのは、アイデンティティが”物”だったんです。ブランド品を持つという。20万、30万もするバッグを持つことが女性としてのエンブレム。

瀬戸:男性だったら、車や時計ですよね。

軍地:エンブレムを持ちたいという思いがブランドを支え、消費を支えてきたのですが、今はSNSで自分を表現できるわけです。IT長者の人たちもITという芸の中で成功

することによって、別のエンブレムを手に入れました。物欲よりも、彼らにとっては仕事の成功がある種のアイデンティティだと思うので、価値観の変化が根底にあります。

瀬戸:逆にいうと、SNSからいろんな個性が生まれやすくもなりましたよね。

軍地:そうですね。ファッション業界でも、低消費になったからこそ個性のある物づくりをするデザイナーたちが出始めました。海外の人から「日本のファッションはポテンシャルが高い」とよく言われるのですが、メイドインジャパンの背景もそうだし、何より日本人は海外にないセンスを持っているんですよね。日本ブランド「Sacai」の成功がいい例。ヨーロッパのデザイナーにないセンスが「Sacai」のデザイナーである阿部千登勢さんにはあって。日本人デザイナーが世界で成功できるというスキームがここ最近できてきた。その部分では、日本のファッションが冷え切っているわけではないんですよね。これからは、日本で作り上げたものをどんどん海外に発信していく時代。そのためには仕組みを変えていかなければいけないと思うんです。私は海外コレクションの合間に展示会を回るのですが、日本ブランドの「mame」や「AULA AILA」、「CA4LA」などもパリの展示会に出展して頑張っていますよ。彼らの努力が実を結ぶように、インターナショナルに買い物ができるeコマースというプラットフォームで、日本ブランドを知ってもらって、買える仕組みが必要になっていくべきだし、それによって今まで認知度が低かったデザイナーが経済的にも報われればいいなと思っています。
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-2015年は業態変化が起きた年
軍地:なんでもそうですが、時代が変わるとき、消費のスタイルが変わるとき、物づくりのスタイルが変わるときってチャンスなんですよ。逆に大手メーカーはシステムを変えていかなきゃいけないので辛い時代。今までと同じように、デパートやショッピングセンターなどの大型店に商品を卸すことだけがすべてではない。eコマースの世界なら、誰もが平等です。その辺の時代変化に合わせられるかというのがこれからのアパレル業界にとって重要になってくるんじゃないかな。そういう意味で、2015年は業態変化が起きた年。売り方のシステムも大きく変化しているのです。

瀬戸:海外と日本のアパレルメーカーとで、ネット活用の仕方で何か違うことはありますか?
eコマースの導入もちょっと遅いんじゃないかなと僕は思うのですが・・・

軍地:海外は通販というシステムがよく出来ていますよね。アメリカは特に国土が広いので、かなり以前から通販事業のネットワークが確立していました。日本でもeコマースは10年くらいの歴史があって数字的には伸びてはいるのですが、やはりまだまだ海外に追いつけていない。その問題点は、単純にインターナショナルになっていないということ。言語と通貨の壁があって、そこで足踏みをしている。日本の中での消費力があるから日本だけで通用するシステムを作り上げてしまった、ガラパゴス化しちゃったんですよね。言語を英語と日本語にするだけでもかなり違ったとは思うのですが、今、ようやく改善されてきている状況ですね。

瀬戸:軍地さんの言うように、僕もシステムの言語対応に力を入れようと思っています。また、ソーシャルコマースにも注目しています。インスタグラムにリンクを貼ることも可能になってきましたし。

軍地:ショップがなくても、ちょっとの英語力があれば自分の作ったものをSNSを通して海外へ売ることが出来る。こんなふうに時代が変わってくるから、ソーシャルを操れる力とか、ネットを通じてフラットに編集できる人は強いと思います。

瀬戸:本当に今はチャンスですよね。若い人も、生産力と英語力があってSNSを駆使できれば、十分商売ができちゃうという印象ですね。

軍地:もちろんそんな時に大人の知識は必要だなと思います。物づくりのサポートだったり、ITのサポートだったり。ファッションって生地調達などでどうしても先立ってお金が必要になってくるから、ゼロベースでもスタートアップできるクラウドファンドを利用するとか・・・ そういう仕組みもちょっとずつ作られてきているから、すごくチャンスだと思います。
[元記事:テクノロジーが切り開くファッションの未来#1 【ファッション・ディレクター軍地彩弓氏】前編]
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