広島県福山市を拠点に海運業で120年以上の歴史を持つ常石グループは、ファッションデザイナー落合宏理をチーフ・デザイン・オフィサーに迎え、「ツネイシデザインプロジェクト」を始動した。常石グループは海運、造船にはじまり、現在では商社、エネルギー、環境など、地域社会に貢献する多様な事業を展開。ライフ&リゾート事業では、「ONOMICHI U2」や「LOG」、客船「guntû」などの運営を通じて、備後の地に次世代へと続く新たな地域資源を創出してきた。
落合は自身のブランド「ファセッタズム(FACETASM)」を手がけるほか、ファミリーマートによるブランド「コンビニエンスウェア(Convenience Wear)」のクリエイティブディレクターを務め、既存のものから新しい価値を創出し、独自性を打ち出すことに成功している。落合が率いるツネイシデザインプロジェクトでは、様々なジャンルのクリエイターと共に、各グループ会社のワーキングウェアのほか、オフィスや周囲環境を取り巻く空間、建築デザイン等、日常業務の中に優れた機能とデザインを取り込む。グループ内にプロジェクトチームを発足の上、ツネイシブランドを醸成していく。
本プロジェクトの第一歩として、国内外のグループ会社を統一するコーポレートアイデンティティを新たに策定した。これまで1903年創業の神原汽船、1917年創業の常石造船ともに、創成期において大切な船「天社丸」からとった「天」の漢字をシンボルマークに起用してきた。新しいコーポレートアイデンティティでは、この「天」を受け継ぐことで、連綿と続く歴史を各グループ会社が共通のシンボルとして認識し、結束をより強めていくことを目的としている。
海運、造船をはじめ国内外の多様な領域に広がるグループであるため、事業名や言語ごとに表記のバリエーションが必要となるロゴタイプをあえてそぎ落とし、シンボルマークのみで統一感を持たせた。グループ各社のロゴと共存する形で展開する。そして、常石グループが長きにわたり共に歩んできた「天」が、地域・社会の人々にとっても馴染みのあるシンボルとなるよう、「Tsuneishi」を想起させる「T」を内包した新たな形を生み出した。
また、日本には左上位の伝統があり、能では舞台上から客席に向かって左側が上手だ。この考え方を取り入れ、常石グループのオリジンである「天」を「T」に対して上手に配置することで、コーポレートアイデンティティが社員や利用者から視認されるだけでなく、コーポレートアイデンティティの視点からも利用者を見つめる双方向の関係性を表している。
落合は、「100年以上に渡り地域を支え、瀬戸内の美しさと共に発展してきた常石グループのチーフ・デザイン・オフィサーに就任いたしました。クリエイティブに対する深い理解とチャレンジ精神を持つ常石グループの重要な役割を担えることを心から誇りに思います。これまでの歴史に敬意を払いつつ新たな視点でデザインを通じた価値を創造し、従業員の皆様や地域に住む方々の未来、そして次世代へ『新しいツネイシ』を繋いでいくプロジェクトだと考えています。」とコメント。
そして、新コーポレートアイデンティティを担当した、グラフィックデザイナー鈴木聖は、「常石グループのシンボルを考え直す際、120 年以上にわたり大切に受け継がれてきた『天』の文字が、社員の皆さんに無理なく理解されるモチーフになると思って取り入れました。ロゴが強く主張するのではなく、各社の実業を陰から支えるイメージで、家紋や地図記号のように概念を形にすることを考えました。福山に暮らす人や働く人たちが町でこのロゴを目にしたとき、すぐに『ツネイシだ』と認識できる象徴的なシンボルとして、地域に溶け込んでいくことを願います。」とコメントを寄せている。
Photo by Masayuki Shioda