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2018年まず始めたいファッションマーケティング、デジタル時代の重点課題「3つのトレンドキーワード」



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2017年を振りかえってみると、ファッションマーケティングのトレンドが大きく転換したといえる1年だった。

それには流行語大賞を受賞した「インスタ映え」や、元SMAP香取慎吾、安倍首相などによるアカウント開設が象徴するように、インスタグラムがマス層にも広がったことで、生活者のファッション情報へのタッチポイントが大きく変わったことが関連する。スマートフォンの普及はもちろん、ミレニアルズといわれるデジタルネイディブの世代が大人になり、消費ターゲットになったことや、気軽に投稿しやすいストーリーズ、ハッシュタグへのフォロー機能などインスタグラムによるユーザーの利便性向上なども寄与しているのではないだろうか。

また、フェイスブックでは投稿のオーガニックリーチの減少も一部でいわれていたが、マーク・ザッカーバーグは先日アルゴリズム変更を公式に発表。今後はより一層、企業やニュースの投稿よりも、つながりが深い友人・知人との投稿が優先されることになる。このことは“フェイスブック離れ”も加速するとして、株価急落を招いた。

ファッションのマーケティング環境も目まぐるしく変化するデジタル時代に、F.M.J.magazineが注目する3つのトレンドキーワードをまずご紹介したい。


|キーワード1:メディアコマースの構築と運用

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そうしたメディア環境の変化により、ファッションの売り方も変わり、デジタルシフトがより鮮明になった。特にHOTワードとなっているのが、「メディアコマース」だ。これは、企業自身もメディアを持たなければならないという「オウンドメディア」の進化系。ブランドの情報を編集して発信する独自の「コンテンツ」と「コマース」機能を併せ持ったECサイトの構築が効果的だというものだ。またそれと同時に、従来ブランドサイトとECサイトは別々に構築するのが通例だったが、SEOやユーザビリティなどの観点から、1つに統合することが主流になりはじめている。綿密に設計されたメディアコマースにより、ブランディングと販売促進の両軸を1つのサイトで実現できるというわけだ。

メディアコマースは、クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」が成功のモデルケースとして位置づけられている。2017年も実際、ゴールドウインなどメディアとECを一体化した仕組みを構築するブランドが見られた。ファッションでは、オムニチャネル先進企業である、ユナイテッドアローズ、アダストリア、ユニクロ、GU、無印良品などが今後もその道標になるだろう。

なお、メディアコマースは、実店舗の売り上げにも必ず貢献するので、EC事業担当者のみが該当する話ではないということを念のため付け加えておきたい。また、現状ECのプラットフォームとなるASPを提供しているサービスは、デザイン面での制約が多いこともあり、オリジナルでメディアコマースのシステムを構築するとなると多額の投資が必要となることも課題点ではある。

|キーワード2:デジタルメディア・プロダクションとのパートナーシップ構築

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コンデナスト・ジャパンの雑誌「GQ ジャパン(GQ JAPAN)」が年間12回から10回の発行に縮小、祥伝社「ジッパー(zipper)、講談社「フラウ(FRaU)」、文化出版局「装苑」など雑誌の休刊や縮小も依然続く。同時にデジタルメディアの躍進は顕著な流れだが、その広告出稿だけではファッションマーケティングは成立しない。メディアプロモーションを含めた各種マーケティング活動は、前述のメディアコマースとの連動が不可欠だ。メディアコマースは構築して終わりではなく、むしろそこからがスタート地点。コンテンツを拡充し、運用し続けてこそ効果を発揮するのだ。

紙媒体とWEBでは、編集制作のアプローチが異なる点も多いため、それに関わるクリエイターも違う。ただ最近は前述の状況により、コンテンツを制作する側である編集者やカメラマン、スタイリストなどファッション業界のクリエイター陣も、雑誌主体の活動からデジタルシフトの流れが起き始めている。また、デジタルコンテンツの制作に特化した編集プロダクションも生まれはじめている。そうしたクリエイターやプロダクションとパートナーシップを結ぶことができるかも、デジタルシフトへの重要なキーファクターとなりそうだ。

ただし、宣伝部と広告代理店、EC事業部とECベンダーは、それぞれ担当する社内のドメインと外部パートナーが分断されているケースが多い。プロモーション活動との連動も不可欠なメディアコマースの運用には、業界として抱える問題は多くあると考える。

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さらに、デジタルマーケティングにおいて、「動画」の活用が注目されて久しいが、ファッション業界においては、メインのコンテンツにはなりえていないことも課題の一つだ。

それはいまだ模索段階にあり成功事例が少ないことや、制作コストに対して費用対効果を出しにくいという側面もある。一方でエンドユーザーのスマートフォンでの動画の消費は拡大の一途にあり、目的に応じたアウトプットの使い分けが重要だといえる。具体的には、トランスコスモスが俳優の山田孝之を取締役に迎えた新会社、ミーアンドスターズを設立して話題となったが、動画のライブ配信でECを展開する「ライブコマース」といった新たな手法もさらなる盛り上がりを見せそうだ。

|キーワード3:ストーリーブランディングとUSP

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今後も前述のような流れが加速する一方で、デジタルマーケティングの最新ツールや仕組みづくりばかりに予算を注力するのは危険であると警笛を鳴らしたい。オムニチャネル戦略は、顧客が買い物を便利にできる手段に過ぎないということだ。さらに例えば、ECで店頭在庫を調べる仕組みは整いつつあるものの、店舗間の在庫移動や、ショップ店員がECの在庫までは提示しないケースも多く見られ、まだまだ改善の余地はありそうだ。

そしてある種当然ではあるが、ブランドにはブランディングが不可欠。その上での、デジタルファーストなマーケティングなのだ。モノや情報、そしてブランドが溢れ、一般ユーザー同士(CtoC)の消費も活性化するなかで、どのように自社のブランドや商品に興味をもってもらえるか、ファンになってもらえるか、という視点で取り組むべきである。

これは2017年から引き続きF.M.J.magazineでも提唱している考え方ではあるが、モノや情報があふれる今は、ブランドの裏側にある“物語”に焦点をあてることでモノの価値を伝える「ストーリーブランディング」によって、その背景に共感や愛着を醸成し、ブランドのファン化を促すという手段が有効だと考える。表面だけの「インスタ映え」する存在はすぐに淘汰されていくのではないだろうか。

古くから愛される老舗が「〜〜屋」といわれるように、品揃えやサービスを専門店化する小売店が話題を集める傾向にあるが、飽和化するマーケットにおいてはブランディングも極端に振り切る「選択と集中」が重要になると感じている。マーケティングの基礎的な話でいえば、USP(Unique Selling Proposition)=他にはない独自の価値、売りを明確に提案できなければ、事業の存続や成功は難しいといえるだろう。あなたのブランドやショップは、なに屋さんなのか、どんな顧客価値や体験を提供しているのか、いま一度見つ直すことが必要かもしれない。

|キーワード0:イノベーション推進のための社内体制構築

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最後に、3つのキーワードを遂行するうえで大前提かつ最も優先順位の高いのは、社内の組織体制の構築と人員配置だ。というのも、昔ながらのアナログな経営者は、デジタルネイティブだからといって入社2〜3年目の若手社員や、転職したばかりのIT関連の経験者を担当者に任命する傾向にある。ただ、その誤ったチームビルディングこそが改革の遅れを招いていることも少なくない。

それは、大企業になればなるほど、アナログ時代の古き良き仕組みやカルチャー、その社内常識こそが改革を推進する障壁となっていることが多いからだ。デジタルマーケティングへの理解やモチベーションはもちろん、社内調整力のある中堅、または人望のあるリーダーを責任者にそえた上で、フットワークの軽い若手人材や外部のアウトソーシングをディレクションしていくことが不可欠なのではないだろうか。

少し前にロレアルジャパンが、CDO=チーフデジタルオフィサーを起用したことで注目を集めたが、オムニチャネルを中期経営計画に掲げた経営者こそ、社内の実情を見直したうえで、いま一度デジタルイノベーションのためのリーダー選定、体制づくりを考えていくべきだと思う。


F.M.J.magazineは今年で5周年を迎える。創刊当初から変わらないファッションマーケティングの視点で、2018年もFEEL-GOODなファッション情報をより独自の切り口でお届けしていきたいと思う。一般読者に楽しんで頂くのはもちろん、業界関係者にとってもブランド躍進の一助になれば幸いだ。

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連載:コピーライター小藥元の「美ンテージ採集」

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