「アンダーカバー(UNDERCOVER)」のデザイナーで、アーティスト高橋盾による初の香港個展「Peaceable Kingdom」が、10月25日から12月14日までWKM Galleryにて開催する。
本展では、30年にわたる創造力の源である高橋盾の暗くシュルレアリスティックな世界を、より深く探求することができる内容となっている。展示される作品は全て新作であり、2025年春夏メンズコレクションのモチーフとなった3点のキャンバス作品も初めて公開される。現代の混沌とアーティストの深い平和への願いの間にある葛藤が描かれた「Peaceable Kingdom」は、高橋にとって最大規模かつ日本国外で初めての大規模展だ。
「Peaceable Kingdom」は、無秩序と調和の間に存在する緊張関係を追求し続けてきた高橋の創作テーマと一貫している。パティ・スミスの同名の曲に触発された本展では、夢幻的な風景の中に描かれた歪んだ肖像や抽象化された人物像、繰り返し登場する林檎や雲といったモチーフが特徴的だ。赤い水たまりに溶け込み、空間に浮かび、消えゆくように描かれた林檎は、純真さと衰退の複雑な絡み合いを象徴し、一方で雲は展示全体に希望の余韻を漂わせている。
これらのモチーフは、高橋の映画的な人物画作品にも登場しており、高橋の人物画には精神的苦悩や実存的恐怖というテーマが投影されたディストピア的なフィクションや不気味なシーンが参照されたものもあれば、日常生活の中の個人的で親密な側面からもたらされたサブカルチャー的参照のなされたものもある。2016年から取り入れられた目を失った影のような特徴的なモチーフは、匿名性を帯び、自らの文化的文脈を超えた普遍性を有している。人物像から目を消す行為を高橋は「その人物の『視点』を吸収し、自らの一部として反映する方法」であると説明し、同時にこれは、高橋が惹かれている不完全さや、未完成で断片的なものから生まれる美しさも映し出している。
Room of contemplationやRoom of abandonmentといった作品には、高橋のオリジナルキャラクターである「ピンクマン」が登場。実存に苦しむ顔のない魂であるピンクマンは、目のない人物画とは対照的に、抽象的で象徴的な形で人間の感情を純粋に表現している。控えめなカラーパレットで描かれた陰鬱としたイメージの中に描かれた雲や青空の一部は、感情的な重さを持つ作品に一時の安らぎを与え、混沌の中にもきっと存在する平和を暗示している。
ピンクマンは寒色寄りのトーンで描かれた「Future Days」の3部作にも、人型の動物の姿や神秘的なシンボルのコラージュと共に登場。この展示で最もシュルレアリスティックで抽象的な3作品は、2025年春夏メンズコレクションのランウェイで生地のプリントとして初めて発表され、今回の展覧会でそのオリジナルキャンバスが初めて公開される。その両方に深い繋がりを持つ者だけが可能とするギャラリースペースとランウェイの間での対話は、高橋の創造性がジャンルの境界を越えて一つのものとして存在していることを示している。
高橋の日本国外での初の個展は、絵画との関わりを深める彼の姿を映し出すものであると同時に、今日のファッションとアート界で最も影響力のある人物の実践の根底にある、緻密に作り上げられた世界を覗き見る機会でもある。何十年にもわたり美とグロテスクの境界を曖昧にしてきた高橋は、この展覧会を通して人間の精神に対する深い探求を続けている。高橋が作品を通して、そしてその全制作活動を通じて捉えようとしているのは、暴力と苦しみ、ロマンスと陶酔、平和と喜びといった、複雑で切り離せない人間経験の本質そのものなのである。
また、10月25日17時からオープニングレセプションも開催。高橋盾本人も在廊し、彼の独自の視点と創造性を直に感じることができる貴重な機会である。