FASHION

EC市場最新売上データにみる、ファッション業界の未来



「月刊ネット販売」の売上高調査によると、12年度のネット販売(BtoCの物販)実施企業主要300社の売上高合計金額は2兆3575億円となった(左表は上位30位までを抜粋して掲載)。

伸び率は1年前の前回調査と比較すると9・4%の増加で、ネット販売市場のすそ野は広がっているものの、上位300社全体の動きを見ると伸び率はやや鈍化傾向にあるようだ。背景には各社間の競争激化があるとみられる。順位を見ると、上位企業に大きな変動は見られない。依然としてアマゾンジャパンが2位以下を大きく引き離す格好でトップの座に君臨している。その後を千趣会とニッセンが追うといった構図になっている。

次に商材に分けて12年度のネット販売市場を詳しく見ていく。

|アマゾンが”一人勝ち”
「総合」で見ると、12年度も1位は引き続きアマゾンジャパン。売上高は前年比18・2%増の6200億円と順調な成長が続いている。同社の施策の1つとして、物流網の拡充が挙げられる。12年5月に九州地区の佐賀県鳥栖市に「鳥栖フルフィルメントセンター(FC)」を開業。このほかにも中部地区では岐阜県に「常滑FC」と「多治見FC」を稼働したほか、神奈川県小田原市に最大規模となる「小田原FC」を設置した。
こうした物流面の強化に加え、販売面ではタイムセールを実施。また、書籍やDVDでの品ぞろえだけでなく競争相手が多いファッション分野を強化するなど”オールレンジ”で他社を圧倒していく狙いのようだ。
「総合」部門の2位は千趣会。同社のネット売上高は前期比12・1%増の813億8000万円。アマゾンとの差は大きいが、2桁増収とこちらも順調に規模を拡大している。前期はテレビCMを活用したクロスメディアプロモーションや送料無料企画などで新規顧客を獲得し結果、ネット販売の売り上げ拡大にも寄与したもよう。同社のネット受注比率は3・1ポイント上昇し、67・9%に拡大している。
一方、3位のニッセンが前期比2・9%の減収とやや振るわず、今後の巻き返しが期待されるところだ。

|「衣料品」では「ゾゾ」が独走
「衣料品」部門では、「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが独走している。
とはいえ、同社も前期(13年3月期)は苦戦を強いられた。CM放映やテレビ番組への協賛といったプロモーションで思うような成果を出せなかった。発刊した「ゾゾカタログ」や千葉市幕張での予約販売会「ゾゾコレ」の成果も限定的なものにとどまった。また、12年11月には10%のポイント還元を開始したが、取引先ブランドの反発などから3カ月間で従来の1%に戻す事態に。
結果的に、同社の前期業績は既存会員のアクティブ化や新規の獲得が未達となり、売り上げにも響いた。それでも、年間購入者数は1年間で50万人以上増えて248万人に、売上高も期初の計画には届かなかったものの、350億円に拡大した。2位のユニクロ(206億円)、3位の丸井(180億円)の有店舗企業を大きく引き離すことになった。「ゾゾ」の販売総額を示す商品取扱高で見ると、959億円となっており、この数字はネットの売り場としては突出したものになっている。

|「化粧品・健食」DHCがトップ
「化粧品・健食」では、ディーエイチシーがEC売上高の推定値259億円となりトップに。2位がオルビス(推定176億円)、3位がファンケル(同160億円)という順になっており、通販市場での主要なプレーヤーが上位を占めている。いずれもネット経由の売上高は5割程度に達している。
特徴として、1to1マーケティングを志向する動きが見られる。例えばファンケルは昨年、顧客情報管理システムを刷新。通販・店販・ネットなどチャネル別に管理していた顧客情報の一元化により行動分析面の強化を図っている。オルビスも年内に大規模なシステム刷新を行う予定だ。

「食品」の首位はイトーヨーカ堂
「食品」部門ではイトーヨーカ堂が首位で、同社のネットスーパーの売上高は前期比14・3%増の400億円。2月末時点でネットスーパーに対応している店舗数は141店で、1店舗当たりのネットのシェアは数%程度となっている。
一方、2位のオイシックスは売上高132億8600万円と規模感ではイトーヨーカ堂に大きく引き離されているものの、増減率では前期比13・4%と好調に推移している。野菜飲料「Vegeel」など独自商品の展開が奏功し、顧客の健康ニーズを開拓した。同社はリアル店舗展開を強化しており、直営店のほか東急ストアへの商品供給により顧客接点を増やす狙いだ。

|「家電・PC」は企業ごとに明暗
「家電・PC」部門の1位は上新電気で、EC売上高は推定で570億円。同社は「楽天市場」や「ヤフー!ショッピング」の大賞常連企業。実店舗の売り上げは減らしているものの、ネット販売については前期も売り上げを伸ばしているとみられる。
同部門3位のヨドバシカメラも前期比33・6%増の458億円と大幅増収となっている。同社は当日配送サービスの対象地域を拡大。さらにネット販売売上高1000億円の早期達成を目標としており、今年2月に書籍の取り扱いを始めるなど、取扱品目の拡充にも着手している。こうした展開により既存顧客の購入回数を増やし、売り上げの底上げを狙っている。

なお、カメラ量販店のライバルとなるビックカメラは240億円で「家電・PC」部門で8位。子会社のソフマップとコジマを合計するとヨドバシの売上高を上回る計算になる。
「家電・PC」の4位はジャパネットたかた。推定値ではあるが、大幅な減収になったとみられる。同社は薄型テレビの需要を先食いする形で大きく売り上げを伸ばしたものの、その反動に苦しんでいる。

今期は「覚悟の年」と位置付け、10年度に達成した過去最高益の更新を絶対目標に掲げ、高田社長自ら「達成できなければ社長を辞める」と宣言。テレビなどデジタル家電中心のMD構成の変革や、ネットと自社専門チャンネルの強化を推進している。
また、「書籍、CD・DVD」部門では、アマゾンジャパンのトップが続いている。同部門の売上高は推定で約2480億円とみられる。同社は物流拠点の拡充を積極的に行うなど一層の規模拡大に向けた取り組みに動いている。

同部門の2位はセブンネットショッピング。同社の「書籍、CD・DVD」関連の売上高はおよそ214億円と推定され、規模ではアマゾンジャパンに大きく引き離されているものの、2桁増収と順調に推移している。

同部門3位は、ローソンHMVエンタテイメントとCCCグループのT‐MEDIAホールディングスの2社がともに推定売上高150億円でランクインしている。このほか、タワーレコードは売上額が不明のためランク外だが、直近のネット販売売上高は前期比80%増で推移しており、動向が注目される。
[元記事:2012年度のネット販売市場 主要300社で2兆3575億円の9.4%増]

「衣料品はゾゾが独走」というのは、ファッション業界ではもはや共通認識かとは思いますが、注目すべきは、その「ZOZO TOWN」のマーケティングの現況とスタートトゥデイ社としてそれを打開する次の一手です。F.M.J.でも掲載していますが、新ガールズファッションサイト「LA BOO(ラブー)」のオープンがその最新施策。ファッションECのプラットフォームとしての「ZOZO TOWN」ではなく、マーケットをセグメントし、全く新しい別サイトとして事業展開をすることで、新たな顧客の獲得を図る動きです。

また、こちらも既にリリースされていますが、一部ディベロッパーなどの業界内からの反発により開始が遅れているという「WEAR」も、注目の新事業です。こちらは、スマートフォンで店頭商品のバーコードをスキャンすることで、ECへの誘引やSNS機能をもたせたアプリによる新サービス。”ショールーミング”を助長するとしての反発はもちろん理解できるいっぽうで、オムニチャネル化は免れない業界の新潮流です。事実「ユニクロ」は今年の6月から既に自社アプリ「UNIQLO APP」に「バーコード読み取り機能」を追加するかたちで、同様のサービスをスタートさせています。アメリカでも「ZARA」や「American Eagle Outfitters」、「Victoria’s Secret」などをはじめ、多くの企業で既に導入されているといいます。”ファッションの買い方”に、売る側よりも買う側のほうが先をいくことは避けたいものです。

業界全体として自社EC化率を高める流れは大きくありますが、数値としてはまだこれからの状況。ブランド顧客が購入客のメインとなる自社ECと、さまざまなブランドファンが回遊するポータルとしての「ZOZO TOWN」は似て非なるものであり、ファッションを買い物することが好きなターゲットが集まるファッションビルのような、”買い場”のひとつとなっています。そういった意味では、ファッションECのリーディングカンパニーとして、これまでの業界の常識や通例を打ち破る施策でマーケットを切り開いてきた同社が、今後どのようなマーケティング戦略とそのアウトプットで成長していくのかが、ファッション業界の未来をあらわす、ひとつのものさしとなるといっても過言ではないと考えます。
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