トレンドキーワードで読む”ファッション・マーケティング”の最新潮流、今日からでも始められる10のチェックリスト。2015年にメディアが注目したPRコンテンツやブランディングなど、#7~10を公開する。
|#7 自社の商品は、それ自体がニュースになるようなPRコンテンツになっているか?
2015年のデジタルメディアを賑わせたのは、スポーツブランドやアパレル各社によるスニーカー新作発売の記事。昨今のトレンドを追い風に、コラボレーションや復刻などのリリースがニュースとなって相次いで記事掲載された。インバウンド需要をはじめ、グローバルでスニーカーヘッズがいること、また読者の性別や年齢を問わないこともメディアにネタとして好まれる一因といえる。それを裏付けるように、スポーツブランドは、デジタルメディアでのPRに特に注力している。
ヒットアイテムや定番アイテムを生むことは、それ自体の売上だけではなく、ブランド認知や価値の向上、来店促進などマーケティングの一助となりえる。また、商品そのものがキラーコンテンツと化せば、デジタルインフラが整った今や、ユーザー自身が拡散してくれるため、プロモーションコストも抑制できるのだ。
自社の商品自体がコンテンツになっているか?、バイヤーやプレス担当者は、いま一度2016年の商品ラインアップを見直すべきかもしれない。
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|#8 自社のブランドに”付加価値”はあるか?それを生みだすマーケティングができているか?
2015年はTSIホールディングスやワールド、オンワード樫山などの大手アパレルを中心に、ファッションブランドの廃止、店舗閉鎖、組織再編など、事業整理のニュースが業界を震撼させた。飽和化する厳しい市場環境の中で、ブランドや商品の差別化ができず、業績不振に陥っている。その背景の1つにあるのは、ブランディングコントロールの欠如だ。リーマンショック以降、売るためのマーケティングが注力され、費用対効果を優先するあまり、効果測定が難しい”ブランディング”のコミュニケーションがおろそかになってしまう。簡単にいうと、目先の売上を追い求めるあまり、そのブランドを買う理由となる、”付加価値”をつくる作業が不足してしまうのだ。
ブランディング手法の一つに、コラボレーション戦略がある。昨年話題を集めたのは、「ナイキラボ(NikeLab)」と「サカイ(sacai)」、「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」と「ハイク(HYKE)」によるコラボレーションコレクション。いずれもスポーツの機能性とファッションのデザイン性を巧みにミックスさせ、両者win-winとなる取り組みになっている。
業界転換期といわれる中で、よりブランドの個性が重要となっている。そして、情緒的な付加価値を生み出すことで、ブランド”ファン”を醸成し、絆を深めていくコミュニケーションがブランドの存続に貢献する。さらには、そのブランドを作るディレクターの存在もブランド価値を左右するキーマンとして欠かせない。2016年は、ブランディングの重要性がより高まるだろう。
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|#9 “わざわざ”行きたいローカルショップのように、自分のショップは個店化されているか?
SPA化による大量生産や他店舗出店によって飽和化したファッション市場に訪れたのは、ローカルショップの誕生。どこにでもある店舗は便利であるが、品揃えが単一で個性がなく、つまらない。いま魅力的なショップは立地や知名度ではなく、”わざわざ”でも行きたいと思わせる、個性的なローカルショップであるとメディアは特集した。
一方で、”地域密着型”マーケティングは、「ユニクロ(UNIQLO)」や「Gap(ギャップ)」といったグローバルSPAやセレクトショップなど、ファッション業界全体の潮流となっている。これは、地域特性に合わせた店づくり、商品展開を行いながら、出店先の地域と繋がり、その活性化に貢献することで地元に愛される店舗を目指すという取り組みだ。
ローカルに合わせた、よりきめ細やかなマーケティングが重要になっている。自分のショップがどうしたら、”わざわざ”行きたい個性ある存在になるか、多角的な視点でトライ&エラーすべきかもしれない。
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|#10 専門性の高い人材を確保できているか?戦略的なパートナー会社を見つけられているか?
#1~9で紹介したテーマ以外にも、2015年流行語となった「爆買い」を象徴するインバウンド対応など、業界が取り組むべき重点課題は山積みだ。これらの課題を解決するには、専門性の高い人材を確保できるかが鍵となる。ファッション企業の中には、雑誌の編集経験者やデジタル分野の専門人材を内包化する動きもある。経営と人事との連携がより欠かせなくなっている。
また、パートナー会社との戦略的な取り組みも不可欠だ。ユニクロは、コンサルティング大手のアクセンチュアやセブン&アイ・ホールディングスとの業務提携というかたちで事業拡大を目指すなど、メガ企業ならではの画策にでている。
コミュニケーション領域では、ファッション系広告代理店やアタッシュ・ド・プレスとよばれるPR会社も、その存在意義が問われる大きな転換期にある。”なんでもできる”マルチな代理業やリース業よりも、専門特化したサービスを具体的に提供できる会社が個々に選ばれはじめているからだ。また、どんなに強力なパートナー会社と付き合っていたとしても、一社に集約することは難しいため、それらをディレクションできるデジタルに強い”マーケティングディレクター”という人材も重要なポジションとなっている。他産業では既に、チーフマーケティングオフィサー=CMO(Chief Marketing Officer)という職種の重要性が注目されて久しい。
F.M.J.編集部として10のチェックリストを作ってみたものの、マーケティングのトレンドサイクルは著しく速いため、未来のマーケティングを予測することは不可能に近い。マーケティングに関わる予算配分の見直し、最適な人材配置と社内体制づくり、パートナー会社選びなど、時代の変化への対応力・柔軟性、見極める力を持つことがファッション企業が生き残る道だと考える。2016年もF.M.J.独自視点でさまざまなニュースをキュレーションしていく。
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