星野リゾートは、「農」から生まれる美しい景観と生産物で観光に貢献する「ファーム星野」の開設を発表した。同施設は、農産物の生産活動に取り組み、そこから生まれる美しい景観やおいしい食への追及を目指す。将来は全国各地へ展開する予定で、その第1弾を北海道・占冠村の「星野リゾート トマム」にて展開する。
同社が提供するのは、その土地ならではの文化や産業、地域の営みにまつわる体験だ。農業から生まれる美しい景観は旅をする人に癒しを与え、そこで生産される農産物は旅を豊かにすると考え、同施設が始動した。広大な土地に放牧された動物がのんびりと過ごす風景、整えられた美しい大地や畑が育む豊かな食は、北海道ならではの体験だ。このような体験を実現するにあたり第一弾として、星野リゾート トマムで生産活動を始めることとなった。
トマムが位置するエリアは、リゾート開発される前は約700頭の牛が飼われ、農業が営まれていた。同施設では、その頃の美しい原風景に戻していき、新鮮でおいしい食を生み出す生産活動に取り組む。ファームでの滞在や農産物を楽しむことで、豊かで広大な北海道らしい風景の中でリゾート体験が実現するのだ。
ファームは現在、同リゾート内ある約 100 ヘクタールの敷地内で、活動を進行中。緑豊かなトマムの山や森林に囲まれ、牛や羊、ヤギ、馬が放牧されており、動物の餌となる牧草も育てている為、耕された畑や円筒状になった牧草ロールが点在している。遠くまで自然が広がる、北海道らしい景観を織りなしているのが魅力である。
自然に近い環境での牛の飼育にも取り組んでおり、昨年6 月に 5 頭の乳牛「ホルスタイン」を飼い始めた。春から秋にかけては、牛舎ではなく放牧で飼育し、十分な青草を食べられる環境を整えており、トマムの冷涼な気候は、暑さに弱い乳牛に適していると言われている。また、乳牛がストレスをためずに過ごせるよう、広さを活かしてのびのびと過ごせる飼育方法を選択。自然に近い形で育てることは、おいしい生産物を作ることにもつながると考えている。
豊かな自然の恵から生まれる生産活動の取り組みとし、昨年8 月には、牛乳の生産を開始。牛乳本来の旨みを楽しめるよう、「低温殺菌」と乳に含まれる乳脂肪を均一化しない「ノンホモジナイズ」という製法を採用している。春から秋は乳牛が青草を食べて育つこともあり、牛乳の味は甘みが強く後味はさっぱりとすることが特徴だ。1 頭の乳牛から多い日は 1 日に約 30リットル搾乳でき、同リゾート内のビュッフェレストランやカフェで提供している。また、ファー ムエリア内の「ミルクスタンド」でも販売中。現在は、この牛乳を原料としたソフトクリームやバターに加工したものも、提供している。
ファームエリア内には、牧草でできた「牧草ベッド」を始めとし、本物の羊を数えながらお昼寝ができる「羊とお昼寝ハンモック」、「牧場ラウンジ」や「ヤギの郵便屋さん」などのおすすめスポットが点在している。ここでは、美しい景観の中で青草を食(は)む動物の姿を眺め、のんびりと過ごすことが出来る。訪れる人にとって北海道の文化体験に触れるきっかけになることは、同社の願いでもある。
同施設を支えるのは、立ち上げから携わる仕掛け人の同社の宮武 宏臣氏と、北海道の浜中町で 32 年間「海野牧場」を経営する海野 泰彦氏だ。農業の営みから生まれる景観に魅了された宮武氏が、自然の中での体験の開発や牛の飼育、牛乳の生産と加工を担当。海野氏に、牛の健康管理、牧場運営面の技術指導を仰ぎながら同施設の運営を行っている。
今後の展望として、景観づくりに加えて、生産活動にもさらに力を入れていく予定であり、今月からはナチュラルチーズ生産に着手し、12月には「チーズ工房」を開設予定。トマムは冷涼な気候で、乳牛が十分な青草を食べられる広い土地が特徴だ。また、春から秋にかけては釧路沖で発生した海霧が十勝平野から流れ込み、雲海が発生する地形であり、このような気候、風土、環境は、乳牛の餌となる牧草にも、乳牛の飼育にも良い影響を与える。例えば、ノルマンディー地方のカマンベールチーズは海風に晒された牧草が豊富なミネラルを含み、チーズに独特な風味を醸し出すと言われている。トマムだからこそできる生産活動に励み、将来は活動場所を全国各地へ広めていく予定で、これらの活動が生み出す景観や食が同リゾートを訪れる人にとって豊かな体験になることを目指していく。