例年より遅めの梅雨明けから一転、8月に入り続くのは猛暑を超えて酷暑な日々。よりビールが美味しい季節に、今年は少し変わったスタイルで愉しんでみるのはいかがだろうか。国内外のクラフトビールを専用のボトルに詰めて“量り売り”をするというユニークなスタイルで酒店を展開するのは、東京・下北沢にある「タップアンドグロウラー(TAP&GROWLER)」。ビール好きが高じて昨年3月お店をオープンしたというオーナーの金井圭司さんに、ストレスレスになれる夏のクラフトビールの愉しみ方をご紹介いただいた。
Photo: J.L.F.S Text: Madoka Takano Edit: F.M.J.magazine
#01 樽生ビールを量り売りする「タップアンドグロウラー」
ー 日本ではビールの量り売りという業態はとても珍しいと思いますが、始めようと思ったきっかけは?
お酒はビールしか飲まないくらいビールが好きで、自分でクラフトビールを作ってみたいと思ったのがきっかけです。普通にビアパブをやっても面白くないかなと思って。量り売りはアメリカでは根付いている文化なんですけど、ボトルを再利用して使うから環境にもいいです。日本の大手のメーカーではボトルを回収するシステムがありますけど、規模の小さなクラフトビールはそれができないので、瓶代は掛け捨て、ワンウェイになってしまうんですね。量り売りであれば初めは瓶代がかかりますけど、再利用できるので環境にもいいし、経済的にも優しいです。
日本初導入となるマシンはロシアから、ボトルはアメリカのグロウラー工場で作って仕入れている。32オンス(約0.9L)のものと64オンス(約1.8L)の2種
ー ビールを瓶詰めするのはどのような仕組みになっているのでしょうか。
ビールは酸素に触れると酸化してしまうので、機械を使って二酸化炭素と窒素のガスを置換したグロウラー(ボトル)に充填していきます。酵母が生きているので、腐ることはないですけど、常温保存してしまうと醸して味が変わってくるので、冷蔵保存で、なるべく早く飲んだ方が作り手の飲んで欲しい味に近い状態で飲めると思います。
ー あくまでも酒屋さんという業態にこだわっているのには理由があるのでしょうか。
量り売りは販売なので、飲食店の業態ではできないんです。飲食店では開封して提供しないといけなくて、逆に酒屋では封をして渡さなければならない。なので、店頭で飲む場合は有料試飲という形をとっています。そしてフードの提供もできないので持ち込み可にしています。
ー クラフトビールにこだわる金井さんですが、クラフトビールの魅力とは?
日本で大手メーカーが販売しているいわゆる「ビール」と呼ばれているものは、「アメリカンピルスナー」という1つのスタイルなんです。でもそれ以外にも沢山のスタイルがあって、本当は自由度が高くておもしろい飲み物なんです。日本では今、醸造所が400カ所くらいあって、それぞれ5種類くらいのスタイルを作っています。さらに、シーズナルで作るものも合わせると2000種類以上のクラフトビールがあるので、飽きないですしね。
ー お店には18種類のクラフトビール(樽生ビール)がありますが、これだけの量を常時管理するのも大変なのでは?
大手メーカーの生ビールは酵母を抜いているので常温保存なんです。だから開封して2週間くらいで使い切らないといけないのですが、クラフトビールは冷蔵保存なので冷蔵庫に入れておけば腐らない。サーバーの裏は冷蔵庫になっているんですよ。
ー なるほど。逆にこの設備がないと提供するのも難しいということですね。飲食店でクラフトビールを生で飲めないのはなんでだろう、といつも疑問に思っていたんです。では、数ある種類の中から自分好みのビールを見つけるには?
最初は店員さんに聞いてみるのが一番。苦いのがダメとか、フルーティーがいいとか自分の好きな味を伝えてみてください。そうするとだんだん好きなスタイルが分かってくると思うので、自分の好きなスタイルが分かれば、何処にいっても好きなビールに出会えると思いますよ。
ー ではちなみに、金井さんの好きなスタイルは?
僕は「IPA」ですね。ジューシーで香り高い。僕苦いのはあんまり好きじゃないんですよね。ラーメンでいうと醤油ラーメンみたいな感じで、クラフトビールでは「IPA」が基本だと思っています。だから、店で選ぶビールもまずはIPAを飲んでみて、好みに合えば他のスタイルも仕入れてみる、というようにしています。
ー 量り売りのビールとは別に冷蔵ショーケースの中にも目新しいデザインの缶ビールが並んでいますが。
ショーケースの中は外国のビールなんですけど、約80種類くらい置いています。僕の好きなブルワリーのものを揃えています。そっちはまず好きなデザインのものを選んでみるといいと思いますよ。ジャケ買いで、だいたい好みのものに当たります。
ー それでは、今後の展望などは。
この店もようやく軌道に乗ってきたので、次にまた新しいお店を作りたいと思っているんです。次のお店は更に面白いことをしたい、と構想を膨らましている最中なんで楽しみにしていてください。
#02 夏におすすめ。ストレスレスなクラフトビール
ー それでは、特に夏のこの時期におすすめのクラフトビールをご紹介いただきます。
01.「カムバック(Comeback)」
スタイル:サワーエール
ブルワリー:和泉ブリューイング(東京・狛江)
度数:4.0%
テイスティング:892円 / フィリング32oz:2140円 / フィリング64oz:3567円
夏は、サワー(エール)がおすすめです。6番の「カムバック(Comeback)」は、あえて乳酸菌で発酵させているので酸っぱくて爽やかです。女性にも人気のクラフトビールです。
02.「ねこにひき(NEKO NIHIKI)」
スタイル:ニューイングランドIPA
ブルワリー:伊勢角屋麦酒 (三重・伊勢)
度数:8.0%
テイスティング:909円 / フィリング32oz:2183円 / フィリング64oz:3638円
11番の「ねこにひき」は最近人気のヘイジー アイピーエー(HAZY IPA)とも呼ばれる、“濁り”のあるビールなんですが、とろみと甘みがあってマウスフィールがいいのが特徴です。ホップが残っているので普通のIPAよりもジューシーですね。これは、今は定番ですが、日本で初めてのニューイングランドIPAといえるのではないでしょうか。
03.「ロストトロピック(Lost Tropic)」
スタイル:サイダー(シードル)
ブルワリー: グラフトサイダー(アメリカ・ニューヨーク)
度数:6.9%
テイスティング:909円 / フィリング32oz:2183円 / フィリング64oz:3638円
少し志向を変えて、サイダーはどうでしょう。リンゴ果汁を発酵させてできた、ヨーロッパでいうシードルです。アメリカではサイダーと呼ばれているのですが、これはオレンジとグレープフルーツを加えているのでジューシーで酸味のあるのが特徴ですね。
ー 実はあまり強くないので開店中は飲まない、という金井さんですが、お店とは別のブルワリーで毎週オリジナルのビールも仕込んでいるそう。大量には作れないので、出会えた時は幸運かもしれません。いつものビールのその先に広がる、クラフトビールの奥深い世界に一歩踏み入れてみるのも、暑い夏を楽しくストレスレスに過ごすきっかけになりそうです。
STORE INFORMATION.
TAP&GROWLER(タップアンドグロウラー)
住所:東京都世田谷区北沢2-33-6 飯嶋ビル1F
営業時間:平日18:00~24:00、土・日・祝日15:00~21:00
定休日:月曜
電話番号:03-6416-8767