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アマゾンが全品送料無料を中止したニュースを分析、〝投資〟から〝利益確保〟へ転換した狙いとEC業界に与える影響とは?



「注文金額2000円未満の場合、350円の配送料を頂きます」。アマゾンジャパンが4月6日から、これまで実施してきた同社が発送する全商品を対象とした”送料無料”を中止した。同社が2010年から本格的にスタートした送料無料化は消費者へはもちろん、多くの競合事業者へも大きなインパクトを与え、その後、多数の通販サイトが実施することになった送料無料化の呼び水となり、「ネット販売は送料無料が当たり前」と世間に認識されるきっかけとなった施策だったが、これを改め、1回の購入金額が2000円未満の場合、350円を徴収することにした。今回の方向転換の理由とは。またアマゾンが起こしたECにおける「送料無料の波」の行方とは。(画像は送料改定を記載した同社ウェブサイトより)

送料負担「重かったのでは」との声も

「”投資”から”利益確保”に方針を転換したのでは」。アマゾンジャパンの今回の配送料の改定の理由について、競合他社の間では様々な反応や意見が飛び交っている。
アマゾンジャパンでは従来まで1回の購入金額が 1500円未満の注文に対して300円を徴収していた配送料を2009年9月から、期間限定のキャンペーンとして書籍全般について無料化したことを皮切りに段階的に送料無料対象品を拡大し、2010年1月からは自ら出荷するほぼ全商品を送料無料とし、同11月1日には通常配送の送料の恒常的な無料化を正式にスタートした。

2012年の秋には調味料や玩具など一部の低価格商品に適用され、1回あたりの購入総額が2500円以上に達した場合のみ販売する「あわせ買いプログラム」と呼ばれる施策を導入してはいたものの、6年半に及んだ「全品送料無料化」が4月5日で終了。4月6日から直販商品および同社が行うネット販売事業者向けの物流業務代行サービス「フルフィルメント by Amazon」の利用事業者の商品の通常配送について、1回あたりの購入金額が税込2000円に満たない場合、同350円を徴収する形に改定した。
なお、税込360円を徴収して受注から3日後までに配送する「お急ぎ便」や同514円を徴収して受注日当日に配送する「当日お急ぎ便」、同360円を徴収して配送時間を指定できる「お届け日時指定便」の料金は従来のまま。また、年額3900円を徴収する有料会員「 Amazonプライム」の会員は引き続き、通常配送、当日・翌日配送、時間指定配送を無料で利用できる。

今回の送料改定は書籍は対象外でこれまでと同様、注文金額に関わらず送料無料のまま。また、今回の送料改定に合わせて「あわせ買いプログラム」適用額も2000円に引き下げている。

配送料金を改定した理由についてアマゾンでは「これまで同様、配送オプションの充実に注力する中で、ユーザーの利便性向上を検討し決定した」(同社)とし、具体的には明らかにしていない。だが、競合のネット販売事業者や物流業界の関係筋の話を総合すると休止に至った理由について2つの可能性が浮かび上がってくる。
1つは「投資フェーズから”利益”を確保する段階に到達したのでは」というもの。アマゾンと競合関係にある業界筋は「アマゾンは競合と戦ってシェアを獲得する時期と利益を重視する時期を明確に分けている」とした上で今回、送料無料をやめたということは競合から明確に大きくリードして「ある程度のシェアが獲得できたと判断しているのでは」とする。

アマゾンはシェア獲得のための施策をこれまでは重視し、「『売ったら赤字になる』仕入れ値を下回る値付けの商品でもあえてシェア獲得のためにこれまでは販売していた」(競合A社)が、「最近では売ると赤字になると言い、(該当商品の)販売をやめた」(某ベンダー幹部)と無理なダンピングをやめて利益を意識する方針へと変わってきているよう。

送料無料もあくまでシェア獲得のための施策であり、目標のシェアが獲得できたため、これを休止して利益確保のため、優良顧客を増やしていく方針に舵をきった可能性があるという。要はアマゾンは今後、新規顧客の獲得よりも、今の顧客に対して手厚いサービスを行っていくことで利益を生まない非優良客の転換率が下がっても優良客の客単価を上げにいく狙いのようだ。

特に今後は「Amazonプライム」会員への誘導を強化していくのではないかと推測され、米国のAmazonプライムの年会費は特典拡充とともに年々、値上げしており、現状はスタート時の50ドルから倍となる99ドル。日本でもアマゾンが有料配信する映画や楽曲を無料で視聴できる新たな特典など矢継ぎ早に追加しており、「米国と同様、年会費を上げて、さらに特典を強化し、優良顧客をよりヘビーユーザー化していく段階に入るのでは」(競合B社)との声もある。

もう1つは「送料の負担が苦しくなってきたのではないか」との見方だ。顧客には”無料”だが、「送料」自体は当然、発生するわけで、本来、顧客が負担すべき配送コストをアマゾンが負担してきたわけだ。いかに圧倒的な販売力を背景に商品調達先のベンダーや配送業者と有利な交渉を進められるとは言え、特に折からの配送業者からの値上げ要請などもあり、背負う負担は重く、費用対効果が下がり、「苦しかったのでは」(物流業界筋)と推測される。”苦肉の策”で開始した模様の「あわせ買いプログラム」も「『分かりにくい』とユーザーからは不評」(競合C社)だったよう。

とは言え、送料無料は新規顧客獲得のメインの施策であり、また、「競合との差別化の観点から簡単には降りることができない状況」(競合D社)だったこともあり、物流業界筋によればアマゾン側は慎重に「やめるタイミング」を見極めており「2年ほど前にも一度、(送料無料を)やめようという動きがあったはずだが結局は継続していた。ようやく様々な状況を踏まえて”やめるのは今”と決断できたのでは」と推測している。ただ、「新規顧客獲得を進める必要がなくなった、とはまだ考えていないのでは。今回も元に戻す(送料無料化を再開する)可能性もあると見ている」(物流業界筋)との声も。

今回のアマゾンの「全品送料無料廃止」。アマゾンが詳しい理由を語らない以上、詳細は不明だが、その動向がEC業界全体の方向性を左右する同社が戦略を転換したのは確か。「今が攻め時で送料無料の実施を含めてアマゾンの顧客を奪いにいく」「アマゾンと同様に送料無料化などはやめる」など今回のアマゾンの動きを受けてすでに競合からは様々な声が出てきているが、いずれにせよ、アマゾンの今後の動きを注視しながら、自社が今後のとるべき戦略を各社が考えていく必要がありそうだ。

「送料負担」他社の動向は?
サービス終了した会社も、注目されるヨドバシの動向

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2010年にアマゾンが全品送料無料を導入して以降、さまざまな企業が同様のサービスを導入してきた。しかし、すでにサービスを中止した企業もある。
アマゾンに追随した代表格は家電関連。11年夏には現在も全品送料無料を続けるヨドバシカメラ、ビックカメラのほか、ヤマダ電機、さらにはケーズホールディングスも通販サイトの商品を全品送料無料とした。

ケーズホールディングスは11年8月に「ケーズデンキ オンラインショップ」の送料を無条件で無料としたが、15年3月に終了。現在は1万円以上の注文で送料が無料となる。同社では「周囲の状況をみて終了した」としている。サービスを導入した当時の本紙取材に対しては、「単価こそ落ちてはいるが、新規顧客も開拓できている」とコメントしていた。

ヤマダ電機の「ヤマダウェブコム」でも、11年7月頃に同サービスを始めた。現在は3000円以上の購入で送料が無料に。同社では「全品送料無料サービスは不定期に期間限定で実施している」と説明している。

ストリームの運営する「ECカレント」では、11年9月に同サービスを導入したものの、すぐに5000円以上の購入で送料無料に戻した。同社では当時の本紙取材に対し、「赤字が出たわけではないが、成果がなかった」と説明。もともと家電中心だけに単価が高く、トータル5000円に満たない買い物が10%以下のため、顧客の反応が薄かったようだ。サービスをきっかけに、購入回数増につなげるような施策を打てなかったことも早期終了につながった。
アパレル関連では、スタートトゥデイの「ゾゾタウン」が12年11月に全品送料無料サービスを始めた。1%だったポイントを10%に引き上げる施策とあわせたもので、既存会員の購入頻度を高めるほか、新規客獲得につなげるのが目的だった。

同社が全品送料無料を中止したのは14年9月。送料無料がサイト利用者拡大や定着化に寄与、商品取扱高が順調に伸びる一方、出荷単価の下落による荷造運賃の負担増にもつながっていた。

同社では当時、本紙取材に対し「より多くのユーザーが即日配送を利用できるようにしたい」と説明。その後、昨年11月には有料会員サービス「ZOZOプレミアム」を始めた。これは月額350円のサービスで、配送料のほか返品送料、さらには即日配送手数料も無料とするものだ。
一般的に、通販サイトで送料無料サービスを実施した場合、注文単価は下落するが購入率は上昇する。近年は荷造運賃の増加が進んでいるが、加えて新規獲得のペースが鈍化、コスト的に見合わなくなり、サービスをやめたというケースが考えられる。スタートトゥデイのように、送料無料による新規獲得ではなく、有料会員に手厚いサービスを提供することで、囲い込みにつなげる企業も出てきている。

動きが気になるのはヨドバシカメラの「ヨドバシ・ドット・コム」だ。家電の場合、注文単価が高いため、送料無料となるラインは比較的高めに設定しているサイトも多いが、ヨドバシは飲料や雑貨といった低単価商品も多数扱っており、さらに追加料金なしで注文当日の配送も手がけている。アマゾンに対抗するかのようにサービスや取扱商品の拡充を続けてきたヨドバシだけに、業界関係者は「しばらくは全品送料無料を続けるのではないか」とみる。
[元記事:アマゾン 全品送料無料を中止、〝投資〟から〝利益確保〟へ転換か]
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