少しご無沙汰しております。 COOKIEHEADです。今回は、少し真面目に、ファッションの話。
私は、ニューヨークでデザイナー ファッションの世界で働いています。アメリカとカナダで、顧客であるデパートやブティックに自分の担当するブランドを営業するお仕事です。年に2回はパリにも足を運び、コレクションを勉強し市場の拡大に日々努めています。しかし、ファストファッションやコピー市場がグローバルに伸びを見せる中、高価なデザイナーファッションの商品を売るということは苦労が絶えません。そしてそれは他のブランドも同じ状況でしょう。
そんな中、自分のしていることは間違っていない、と背中を押してもらえる機会にもなるのが、多くの思いが込められたファッションが「アート」として認められ取り上げられる時。
ニューヨークにあるかの有名な巨大なアートの殿堂、メトロポリタン美術館には、The Costume Instituteと呼ばれるファッションを専門とする大きな機能があります。 ファッションの膨大なアーカイブを所有し、メトロポリタン美術館の一部で頻繁に展示を行っています。その中でも年に一度の大きなイベントであるMet Galaは、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?アメリカ版Vogueの(泣く子もだまる) 編集長、Anna Wintour監修の元、毎年5月に行われるファッションの祭典Met Galaは、ファッション界のグラミー賞などと呼ばれるほど大きなイベントです。
そのThe Costume Instituteにて、現在行われている展示に行ってきました。
テーマは、”Masterworks: Unpacking Fashion”
今回は、The Costume Instituteがこの10年の間に寄付や購買によって蓄積してきたファッションの中でも、多くの技術や美術性を表現するピースを集めています。それらは18世紀の貴重なドレスから、最新のDemna GvasaliaによるBalenciagaに至るまで、多岐に渡ります。
保存状態の素晴らしさも、The Costume Instituteが誇りとする部分です。
息を飲むほど美しく重ねられたチュールと、大胆に切られたスカート部分から覗く黒のライニングが独創的な、Viktor & Rolfのドレス。
木のパネルが組み合わされた、Yohji Yamamotoのドレス。
左は川久保玲によるComme des Garcons、その隣はJohn GallianoによるMaison Margielaのジャケット。同じ赤でも質感やシルエットを通してそれぞれのデザイナーの違いが見て取れます。
こちらの白いドレスもComme des Garcons。これを着て、もう一度結婚式を挙げたくなってしまいました。
左はYohji Yamamoto、右はIssey Miyake。80年代にファッションの世界に新しい風を吹き込んだ日本のデザイナー達は、今も美術館で多く取り上げられます。
私の一番のお気に入りだったのは、John GallianによるMaison Margielaのこちら。日本の帯にインスパイアされたであろうデザインと、ネオプリーンの様なハリのある素材の遊び心が好きです。
そして最後にこちら。今最も注目されるデザイナーの一人であるDemna GvasaliaがBalenciagaのFW 2016の為に作ったこのスタイル。
最新のコレクションが既に美術館に寄贈されていることに驚いたと同時に、このDemnaのスタイルは今季の流行を象徴し、多くのファストファッションがコピーをしているという現実について考えてしまいます。ファッションの歴史に残るという確信の元、「アート」として美術館で見せられている最新のこのスタイルは、美術館を出て少し歩けばぶつかるファストファッションのチェーンにおいて、実際の値段の10分の1(もしくはそれ以下)の価格で購入が可能であるという皮肉。ファッションの世界が「アート」であると同時に「ビジネス」である、というのは昔から変わらない事実。 しかしそこから及ぶ「二次ビジネス」に至っては、「アート」とは離れてしまっているアンバランスな状態を痛感します。
誰が罪深いのかを追求したいわけではありません。ただ、このThe Costume Instituteのように権威のある誰かが、ファッションをアートとして見せる場により多くの人を呼び寄せることは重要だと思います。アートとしてのファッションを見せ、多くの理解を生み、(平たく言うならば)「本物」と「偽物」の違いを技術やクオリティ、製造の過程や美術性といった様々な点から消費者に教育する場が更に増えることを私は望みます。
ついついアツくなってしまいましたが、それも、私が働くデザイナーのブランドも実は今回展示されていると同時に、ファストファッションにも注目されているという現実があるから。衣食住の一つとして人々の生活に欠かせない要素でありつつも、アートでもあるのがファッションの面白いところ。更にはそれが様々な形でビジネスとして発展している現在、ランウェイを扱う私は、「ファッションはアートである。」と声を大にして言いたいですし、そうであることを確認できる展示に出向くことで、明日への糧になります。
この展示はメトリポリタン美術館のAnna Wintour Costume Centerにて、来年の2月5日まで開催されています。
http://www.metmuseum.org/exhibitions/listings/2016/masterworks